2012年8月1日水曜日

The Summing Up

サマセット・モーム全集 第二十五巻 「要約すると」 中村能三訳 新潮社 昭和三十年五月三十日発行 定価250円 1955年11月30日京都・四条、駿々堂にて購入。掃部正。

 これは自叙伝でもなければ、回顧録でもない。わたしは生まれてきた間に、自分の身に起こったことを、何らかの形で、作品の中に書いてきた。自分の体験を主題に用い、その主題を描きだすために、一連の挿話を創作したこともあるし、もっとしばしば、軽い知り合い、あるいは親しくつき合った人物を拉し来って、創作中の人物の原型に用いたこともある。わたしの作品の中では、事実と虚構とが相混淆しているので、かえりみると、今では、その二つが自分でも区別できないほどである。・・・

この本では、わたしは今までの生涯で、自分が主として関心を持ってきた問題についての考えを、整理してみたいと思う。しかし、私がたまたま得た結論は、荒海に浮かぶ難破船の漂流物のように、わたしの心に漂っていたものだ。そういうものをある体系に整理するには、それらの真の姿を、もっと明確に自分の眼でみて、なにか統一したものを通さなければいけないように思えた。・・・

わたしは、長い間、心の中にわだかまってしこりのようになっていた考えを取り除きたいためにこのブログを書くのである。わたしは人を説得しようと思わないし、自分の知識を自慢するつもりは毛頭ない。わたしは教育家的本能は持っていないし、何か知っていることがあるにしても、それを他の人と共有しようという欲望は感じない。人が私の意見に賛成するかどうかなど気にしない。勿論、内容に関して正しいと思っている。また、自分の主張が一般の人の主張と違っているとわかっても、そう苦にはならない。わたしは、自分の考えが独創的でかつ重要なようなものであるかのように書くに違いない。そして、事実わたしにとっては、そうなのである。 

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